親亡き後の準備のため自立をめざし自分たちで立ち上げた学びの場 ~なないろサーカス団・『長男の会』さん~


奈良県北葛城郡王寺町の「NPO法人なないろサーカス団」様より
新たに「長男の会」という親亡き後のため自立を目指す
面白い取り組みが始まったとお聞きし、取材にお伺いしてきました。

NPO法人なないろサーカス団様では、
多彩なアーティストでもあるメンバー(団員)の皆さんが
「人とモノをつなぐ」「人と場をつなぐ」「地域をつなぐ」「想いをつなぐ」
を4つの柱にして日々活動をされています。

就労継続B型事業所ですが、地域の方々が入れ替わり立ち代わり
ふらりと立ち寄られては、団員さんとおしゃべりしたり、
同じ地域で暮らす人同士、お互いに助け合ったりする憩いの場にもなっています。

今回、そんななないろサーカス団・団員メンバーの中で
新しく立ち会ったのは『長男の会』

(『長男の会』という名前ですが、
もちろん長女、次男、次女・・・の参加も大歓迎!だそうです)

『長男の会』がどのようにしてできたのか、その日々の活動の様子は以下のとおりです。


発足のきっかけ

『長男の会』誕生のきっかけは、会のリーダーでもある団員メンバーのMくん。
大好きなおじいさんが入院し、病室にお見舞いにいくことが増えたとき、
病気や老いで介護が必要になったおじいさんを見て
Mくんは考えるようになりました。
「もし、自分の親に介護が必要になったときは、長男である僕がやってあげたい。」

なにかしなくちゃと考え始めたMくん。
だけどいったい、どうすればいいのだろう。
ちょうどそんなとき、近くの団地で暮らし始めた
団員メンバーのI先輩がMくんに言いました。
「一人暮らしはたのしいぞーーー!」

I先輩が一人暮らしをするおうちを訪れたMくんは、
洗濯や掃除を体験してみました。

「I先輩の一人暮らしすごい!選択の練習・洗い物・食器を拭いて片づけました。
親が老いる前に練習を。おかあさんはぼくが守りたい。」(Mくん)

Mくんは決意します。
「まずは僕が自立をしなければ。」

Mくんは、団員メンバーのCくんにいいます。
「Cくん、Cくんのお父さんとお母さんが
いつかお年よりになっちゃうって知ってる?」

「え、そうなの?」
Cくんはビックリします。
だって、いつも元気な親がいつか年老いるなんて、
そんなこと、今まで考えたこともなかったら。

20年後の親を守ることを考えるMくん。
CくんもMくんと一緒に親を守る勉強をしたいと考え始めます。
そうして、Mくんを中心に
団員自ら立ち上げた学びのチーム『長男(長女)の会』が発足しました。

自立を考える

長男の会では、親が年老いることはどういうことかを皆で勉強します。

親を守るためにはどうしたらいいか意見を出し合います。
料理を手伝う、優しくしてあげる・・・、
中には、年老いることを考えていなかったメンバーも。

でもまずは、自分たちが自立することを考えないといけない。
不安にならなくても大丈夫。皆がいるから。皆で今から練習ができる。

年老いた親を想定した介護の練習

皆で(年老いて寝たきりになった親を想定した)介護の練習。

すでに親を亡くしたメンバーが、自身の両親の介護体験を語ってくれます。
みんなは、そんな経験をしているメンバーの話を尊敬しながら聞き、
実際に自らも体験してみます。

メイクの練習

家族と同居から一人暮らしをはじめ料理も自炊も出来るようになったYさん。
離れてみることで家族の気持ちも理解できるようになりました。

一人暮らしをきっかけにこれまで人が苦手だと壁を作っていたのは自分だった、
と気が付いてから、人に会うのが楽しくなったそうです。

「これはイヤ」「これでないとだめ」
など、周りの方からは理解されがたい、障がいがある人のこだわりは
「自分を守るためのヨロイ」なんだと教えてくれました。
そのヨロイを脱ぐことができれば自分自身も楽になる、と。

自分が変われば周りも変わる。
就職活動のためメイクを教わってとっても素敵な笑顔美人さんへ変身!
自分に自信が持てるようになりました。

みんなで内覧・住まいさがし

メンバーのHさんの一人暮らしの住まいの内覧にメンバーも参加。

なんと一人暮らし宣言から物件決定まで、わずか一日!
スピード自立に周りのメンバーがびっくり仰天!
(きっとHさんの心のなかではもうずっと前から
自立することは決まっていたのでしょうね)


「この部屋にするわ」(Hさん)
「え!!(今日もう決めるの?)」(Mくん・Cくん)

助成金の申請

親の介護の勉強と自分たちの自立について学ぶための資金を調達するため、
この度助成金の申請をした『長男の会』さん。

お金をどんなことに使うのか、何を学びたいか、
メンバーでいろいろなアイデアを出し合った企画会議。

その後、助成金の申請が無事通ったそうです。

おめでとうございます!
助成金でホームページをつくり、
一人暮らしの様子や学びんだことなどの

活動の様子を発信されるそうです。
ホームページの完成を楽しみにしています(^^)

今回、快く取材に応じてくださった長男の会のメンバーの皆さん。
将来、皆どんなふうに暮らしたい?と質問をしてみました。


Mくんは携帯で気持ちを伝えてくれます。
「おかあさんやメンバーを守ってあげたい。」
「メンバーと一緒に一人暮らし体験がしてみたい。」


「自分も一人暮らしにチャレンジしてみたい!」というKくん。
「まずはI先輩と一緒にI先輩の家で泊まってみようかな~」


お父さんお母さんがいなくなったら、
きょうだいと一緒に住むことも考えていたけど、
メンバーと自宅の畑の世話をしながら自宅で一人暮らしがしたい。
一人で泊ったことがないので練習してみたい」と語ってくれた副リーダーのCくん。

 

メンバーの皆さん、長時間お話を聞かせていただきありがとうございました!

(編集後記)
以前から何度かなないろサーカス団団員の皆さんとは
お会いすることがありましたが、
サーカス団の中川団長から『長男の会』発足の話を聞いたとき、
まず思ったのが「あ、当事者版の『あかるいみらい準備室』だ!」でした。

親としては障がいのあるこどもの将来を案じ、
「親亡き後のために親が様々な制度を学んで、
あれこれ準備をしておかなければ。
障がいのある我が子はグループホームか施設へ預けよう。
今のうちによい法人を探しておこう。」と考えがちです。

でも、学習会などでお話させていただいているとおり、
親亡き後準備のなかで一番大切なのは
「こども自身に力(決定力や生活力)をつけてもらう」
「こども自身が自分の人生を自分らしく生きられるため
(自分の人生の主役として生きられるため)の周りのサポート体制を整える」
ことだと当窓口は思っています。

障害があることを理由に
「できない」を決めつけあきらめてしまっていませんか?
まわりが本人の「できる」やその機会をうばってしまっていませんか?

 

「チャレンジしてみたい」という意思と
仲間や環境(適切な周囲のサポート)があれば、
どれだけ障がいの重い方でも、地域で自分らしく生きていくことができる。

『長男の会』さんは、生きづらさを抱えた当事者の方の成長の場になると同時に、
そのことを周りの皆に気が付かせてくれる場にもなるのではと
当窓口も期待しています。

メンバー皆さんの、これからのご活動とご活躍を心から応援しています。
皆さんの一歩が「未来」を変えていける力になることを信じて。

 


なないろサーカス団様ホームページ http://nanairo-circus.com/

最後になりましたが、『長男の会』メンバーの皆様、
取材にあたり何度もやり取りしてくださったなないろサーカス団団長の中川様、
スタッフの皆様、団員の皆様、お話を聞かせてくださった団員のご家族のM様、
ありがとうございました。
また皆様に会いにうかがいますね(o^―^o)