障がいがある人の学びの場・福祉型専攻科にお邪魔してきました~ ジョイアススクールつなぎさん・ジョイアススクールspaceさん


「障がいがある人に進学の選択肢を」。

障がいがある人の中等教育(高等学校・養護学校高等部)卒業後の進路は
これまで福祉型就労か就職、もしくは生活介護の3つしかなく、
進学の道がほぼとざされているのが現実でした。
(肢体・視覚・聴覚障害の人には、昔から進学の道もありますが、
知的障害か、知的が重複すると進学の道はありません。)

人より成長がゆっくりであることが多い障がいがある人が、
自分の将来のことをゆっくり考える時間もないまま
中等教育卒業後にすぐ社会人として職場や事業所でデビューする。
じっくり進路について考える時間がないまま
卒業までに就職先を決めなければいけないため、

結局仕事が続かず、離職してしまう・・・という問題も以前から指摘されていました。

 

他の(障がいのない)学生たちと同じように、障がいのある学生にも、
自分たちの興味がある分野の知的欲求を深めたり、
生活や社会の仕組みについて学んだり、
友人・仲間との遊びや趣味の時間を楽しみ青春を謳歌したり、
自分の将来(どんな仕事が向いているのだろう?自分はどんなことを仕事にしたい?)
についてじっくり考えたり、
そんな風に「自分自身」と向き合う機会を持てることは
さまざまな経験の時間がその人の人生を豊かなものとするために
必要なのではないか。

 

そんな「障がいがある人に進学の選択肢を」という運動のなかで
今第三の進路として注目されているのが、
障がいのある人の学びの場である「福祉(事業)型専攻科」です。

「福祉(事業)型専攻科」は、
障害福祉サービスの自立訓練(生活訓練)事業等の制度を活用し

知的障害、発達障害などがある人が中等教育卒業後も、
コミュニケーション力など、社会生活に欠かせない力を伸ばせる場であり
現在、全国に約50カ所が開校しています。

 

「どんなところか実際にこの目で見てみたい。」
以前から気になっていた福祉型専攻科について、
先日、「ジョイアススクールつなぎ」さん、
「ジョイアススクールspace」さん見学をさせていただきました。

 

 

〇県内初!の福祉型専攻科・「ジョイアススクールつなぎ」さん

奈良市の「ジョイアススクールつなぎ(以下、つなぎ)」さんは、
自立訓練(生活訓練)(原則2年)と
就労移行支援(原則2年)の4年制の障がいのある人の

高等教育の場として2013年4月に県内で初めて開校されました。
県内初だったために、当初は「障がいのある人に教育なんて必要なのか」
というお声も多かったそうですが、開校以来年々生徒数も増え
今は養護学校高等部卒業後の進路として、学校の先生方、保護者の方にも
進路の一つとして検討される方が増えているそうです。
(わが子をここに通わせたい!と
県内あちこちにお住いのご家族からお問合せがあるそう)

 

ジョイアススクールつなぎさん外観。
カラフルなパッチワーク風のワニさんのアートが目印です。

 

つなぎさんでは最初の2年間は『専攻科』、続く2年間は『かち創造科』として、
合計で4年間学べるカリキュラムや活動を用意されています。
講師陣も、元養護学校の先生方など、障害に理解があり、
各学生の個性を大切にする各分野の
教育のスペシャリストがたくさんいらっしゃるそう。

 

『専攻科』(1・2回生)
作業経験や労働経験はなく、音楽・美術・経済社会・情報コミュニケーション・英語・
その他セクシュアリティ教育などの学習が中心です。

一年を通してある様々な行事(イベント)や内容は、学生が中心になって決めます。
1回生の時は、お互いの地元を紹介し合う授業が、
2回生では、自分の好きなものを調査研究し、
そのテーマについての研究発表会があります。
2年の学びを通して自己のアイデンティティの確立を
目指すカリキュラムになっています。

 

 

『かち創造科』(3・4回生)
3・4回生は、作る喜びや働く価値を知ることを目的に
「創作」(陶芸などに取り組み販売できる商品を生産する)、
農業実習、社会生活力プログラム(金銭管理、そうじ、洗車など)等の授業があります。
「特別授業」では、セクシュアリティ教育、福祉制度、職場見学・体験等を学びます。

 

実際に授業が行われている教室にもお邪魔しました。
ちょうど美術の授業中で皆さん思い思いに作品をつくられていました。
(訪問させていただいた日は3・4回生は実習で
登校されている生徒さんが少数でしたが、
課題やレポートの作成などに取り組んでおられました)
皆さんとっても仲が良くわいわいと授業を楽しんでおられました。

「専攻科」1年生クラス  

「専攻科」2年生クラス

 

「皆でどこ行く?」卒業(修了)旅行やイベントの計画も
行程から自分たちで考えて決めるそうです。

「かち創造科」の掟!?(笑)
(ある年の学生が決めた内容ですが、ちょっとふざけもいれて、
「掟」なんて遊んでいます。全体的にいつも
笑いがいっぱいで陽気な学校です。
(コメント:ジョイアススクール阪東校長先生))

 

「かち創造科」4回生クラス

 

つなぎさんではお昼はランチの提供があるそうですが、毎日、交代で
当番の学生さんがお味噌汁を教員・生徒全員分作るそうです。
具はその日の当番の生徒におまかせ。
野菜やキノコなど数種類の具材を自分たちで選んで
カットして手際よくお味噌汁を作っておられました。
出来立てのあったかい汁ものが毎日いただけ、自分が作ったお味噌汁を
皆が「おいしい!」と食べてくれると自信にもなりますね。

 ジョイアススクールつなぎさんのカリキュラムや授業詳細はこちら
【ジョイアススクールつなぎ】ジョイアススクールつなぎ | 一般社団法人 みやこいち福祉会 (joyous-tsunagi.com) 

 

〇障がいが重くても通える大学を、の願いから生まれた「ジョイアススクールspace」さん

2021年春に奈良市に開校した、「ジョイアススクールspace(以下、space)」さん。
県内2校目となるこちらは、一般的に自力通学できる方を対象とする
福祉型専攻科(「ジョイアススクールつなぎ」さん)に対し
「障がいが重くても通える学びの場を」という本人やご家族の願いから生まれた
生活介護事業を活用し、送迎がある形の福祉型専攻科(大学)です。

 

spaceさんでは、4年間の学びを通じて学生さんが
「学校から社会へ」
「子どもから大人へ」
「主体的な自分へ」の3つの移行ができるように、
多彩な活動とカリキュラムが用意されています。

 

主な授業内容

・ロングホームルーム・はなしあいかつどう・えらぶかつどう・
かていか・りゅうきゅうぶよう・びじゅつ・そうさく、などなど・・・・

 

ジョイアススクールspaceさんのカリキュラムや授業詳細はこちら
【ジョイアススクール space(すぺーす)】 | 一般社団法人 みやこいち福祉会 (joyous-tsunagi.com)

ジョイアススクールspaceさん外観   

 

お邪魔させていただいた日はちょうど
「かていか(家庭科)」の授業が行われていました。
皆さんとても仲良く和気あいあいと授業に参加されていました。

本日の調理メニューは鯛のアクアパッツァ


先生から授業に入る前に本日作る料理の説明をうけます。


身支度を整えて、皆で具材や調味料を確認して調理を始めます。
アンチョビなど珍しい材料も
先生が丁寧に説明されていました。

 

学生の皆さん、切り方を教わって自分でチャレンジ。
切るのが難しい野菜も慎重に。

うまく切れると自信になりますね。

ホットプレートで調理。材料をひっくり返して十分に火を通して
材料を混ぜて味付けして完成。
ちょうどお昼休みになり教員も学生さんも一緒に皆で試食。

とってもおいしかったです。


2つの福祉型専攻科を運営されている一般社団法人みやこいち福祉会様。

元養護学校の教諭を中心に「卒業後にもっとじっくり自分自身や進路を考えたり
青春を楽しんだり学びを深められる高等教育の場が必要ではないか」という思いで
ジョイアススクールつなぎを開校されたそうです。

学生さんによっては、なかなか授業に参加できなかったり
トラブルをおこしてしまったり、という方もいらっしゃいますが

先生方が学生一人一人と向き合い、4年間の中で
自分のペースですこしずつ大人へ成長され自立していかれる
学生さんに寄り添っておられました。

 

卒業後の就職支援はもちろん卒業後も定期的に様子を確認されるなど
手厚いサポートをされています。

 

みやこいち福祉会様では、卒業し、
就職した後も学生たちが仕事や生活の悩みを互いに
話し、集える仕事帰りに集まれる居場所づくりや

自立を目指す方のグループホーム、
保護者同士も孤立することなく繋がれる場・
情報収集の場としての学習会の開催なども
定期的に開催をされているそうです。

お忙しいなか2日間にわたり学校見学をさせていただき
お話を聞かせてくださった学校長 阪東先生、教員の皆さま、

授業のお話を聞かせてくださったジョイアススクールつなぎ・spaceの
学生の皆さま、ありがとうございました。

※写真は掲載の許諾をいただいて掲載しています。